終電まであとわずか。
急いで職場を出る。
走って駅に向かう。
疾走するぼくは、
キャバクラの客引きたちをいなす。
右足が着地するたびに、ズキズキ痛む虫歯。
そろそろ歯医者に行かなければ、と思いながら走る。
駅につき、階段を上ると、
ちょうど電車が到着した模様。
人々が降りてくる。
流れに逆らいホームへ出て、
閉まる扉に向かう。
左手に「なにか」がかかった気がする。
閉まる扉。
終電に間に合い、
ホッと胸を撫でおろす。
左手を見ると、
固形物のようなもの。
目線をずらし、ズボンを見ると、
!!!!!!!!
ゲロがめっちゃかかってる。
クリーニングしたばかりのスーツに。
よくよくみるとカバンにも。
そして、かなりのボリューム。
ドア越しにホームを見ると、
大量のゲロの跡。
犯人はもうどこかへ消えている。
じたばたしてもはじまらない。
周囲の乗客の反応は見たくない。
そっと、目を閉じる。
足にしっとりとした感触。
ズボンの生地を通って地肌に達した模様。
しばらくすると、
誰かが吐いている音。
見ると、もらいゲロされた様子。
拡散する被害。
被害者のぼくが、加害者の気分。
申し訳ない。
降車駅につき、
駅のトイレに向かう。
トイレットペーパーに水をつけ、
可能な限り汚れを落とそうと試みる。
しかし、紙はぼろぼろになり、
ズボンにはゲロと紙くずとがごちゃまぜになる。
トイレットペーパーは、水に溶ける。
そうこうしているうちに、
駅員さんがやってきた。
「シャッター閉めるんでもう出てください!」
小さくうなづき、
出口へ向かう。
大好きな言葉を思い出しながら。
「辛いという文字がある。もう少しで幸せになれそうな字だ」
明日もがんばろう。